食べて健康?

 10月、東京・有楽町で開かれた日本癌(がん)学会。聴衆の中
に、PR会社「エル・アイ・アイ」の社員、杉山厚子さんの姿があ
った。同社は主に果物などのPRを手がけ、食品の健康情報を切り
口にするのが得意。学会は情報収集のよい機会だ。クライアントの
委託で研究者に研究を依頼し、成果をマスコミに伝えることもある。

 「熟すほど、バナナの有効成分が増えるデータはありませんか」。
杉山さんの一言から研究が始まり、99年、日本癌学会での「熟し
たバナナほど、免疫活性力が強い」という発表に結実。1年余りに
わたるバナナブームを起こした。「飽和状態の市場で消費を広げる
には強い動機づけが必要。学術情報をかみ砕いて健康にいいと伝え、
価値を高めるんです」とゼネラルマネージャーの正木陽さんは話す。

 学会発表や実験室での研究内容が、次々と食卓へ届く。「氾濫(
はんらん)する健康情報に戸惑っている人も多いのではないでしょ
うか」。東北大大学院の坪野吉孝助教授(公衆衛生学)は、こうし
た情報を評価するチャートを作った。

   *

段階は五つ。
(1)具体的な研究に基づくか
(2)動物や細胞ではなく、人が対象の研究か
(3)単なる学会発表ではなく、審査を経て専門誌に発表された論
   文に基づくか
(4)より信頼性が高い研究手法の「無作為化比較試験」あるいは
   「前向きコホート研究」をとっているか
(5)複数の研究で支持されているか。

 この5段階をクリアしてこそ、受け入れる価値があると坪野助教
授は考える。「学会発表のデータを引き合いに出す情報が多いので
すが、それだけでは判断しないのが医学研究の原則」。がんと食物
の関係では、この5条件を満たす情報はまだ少ないという。

 「抗酸化物質が、がんや糖尿病、動脈硬化を防ぐ」。最近、注目
を集める話題だ。ポリフェノール、リコピンなど食品に含まれる抗
酸化物質の解明が進んでいる。

 しかし、「こうした物質を含む食品を人がどの程度食べれば、病
気予防に効果があるか、という研究はこれから。まだ体内の抗酸化
レベルを測る適切な物差しを探している段階です」と五明紀春・女
子栄養大教授(食物栄養学)は言う。

 それでも、野菜と果物がほとんどの部位のがんに対して発生リス
クを抑えることは、数々の疫学研究の結果から、おそらく確実とさ
れる。ただ、食べる量は一般に考えられているより、ずっと少なく
てよい可能性もある。

 今年11月1日号の「国際がんジャーナル」に発表された厚生労
働省の前向きコホート研究では、野菜と果物を食べる頻度をたずね
た上で約4万人を10年間追跡調査した。その結果、緑色野菜を週
1日未満しか食べないグループに比べ、週1〜2日食べるグループ
は胃がんの発生率が約20%下がった。が、食べる頻度がそれより
増えてもリスクはそれ以上減らなかった。黄色野菜も果物もほぼ同
じ。

 この研究だけでは、結論は出せないが、「食物の摂取量とがんの
リスクの関連は、多ければ多いほど、リスクが下がるとは限らない」
と国立がんセンター研究所の津金昌一郎・臨床疫学研究部長は言う。